序章:新たな航海へ
2025-26シーズンのラ・リーガが、バレンシアの暑さの中で幕を開けた。レアル・ソシエダにとって、これは単なる開幕戦以上の意味を持つ。メスタージャでの一戦は、大きな変革期を迎えたチームにとって最初の公式な試金石となる。
この試合の中心的テーマは、長年にわたりチームを率いたイマノル・アルグアシル監督の退任と、Bチームから昇格した後継者セルヒオ・フランシスコ監督のデビューである。スペインのスポーツ紙『MARCA』は、イマノル体制の終焉と中盤の要であったマルティン・スビメンディの移籍を受け、今季のチームを「シーズンの大きな未知数」と評した。この試合は、アルグアシル監督の下で築かれたクラブの哲学が、新たなリーダーシップの下で継続できるのかという問いに対する最初の答えを示すものだった。
本稿では、この重要な一戦に対する欧州メディアの報道を分析し、特に久保建英のパフォーマンスに焦点を当てる。単にゴールという事実だけでなく、彼の役割がどのように認識されているか、そのパフォーマンスのニュアンス、そして新体制のレアル・ソシエダにおける彼の地位を、スペインを中心とした欧州の視点から掘り下げていく。
第1章:新時代の幕開け、メスタージャでの試練
セルヒオ・フランシスコ監督が送り出した最初のスターティングイレブンは、ある程度の継続性を示していた。久保はミケル・オヤルサバル、アンデル・バレネチェアと共に攻撃の三枚看板を形成。スペイン紙『AS』によれば、フォーメーションは4-3-3であり、新プロジェクトをポジティブな結果で始めたいという明確な意図がうかがえた。
複数のスペインメディアは、前半はレアル・ソシエダが優勢だったという点で一致している。ボールを支配し、より危険なチャンスを作り出していたのはアウェーチームだった。特に『Mundo Deportivo』や『Noticias de Gipuzkoa』の報道では、ブライス・メンデスに訪れた2つの決定機がハイライトされている。1つはバレンシアのGKにセーブされ、もう1つはホセ・ルイス・ガヤのタックルに阻まれた。バレネチェアにも惜しいシュートがあったが、枠を捉えることはできなかった。
この試合展開は、フランシスコ監督の初陣が、前任者であるアルグアシル監督の時代からの急進的な戦術的転換ではなく、むしろそのスタイルの継続と進化を目指すものであることを示唆していた。アルグアシル体制下で見られた強み(中盤の支配力)と、時折見られた弱点(決定力不足)が、そのまま引き継がれているかのような前半45分間だった。この支配しながらも得点を奪えない状況は、試合の均衡を破る個人の閃きを待つ舞台を整えることになり、後の久保の介入を予感させた。
試合概要
- 大会: ラ・リーガ EA SPORTS 2025-26 第1節
- 日時: 2025年8月16日 21:30 CEST(日本時間 8月17日 4:30)
- 会場: エスタディオ・デ・メスタージャ(バレンシア)
- 最終スコア: バレンシア 1 – 1 レアル・ソシエダ
- 得点者:
- 57分: ディエゴ・ロペス(バレンシア)
- 60分: 久保建英(レアル・ソシエダ)
第2章:均衡を破る一撃、そして決定的同点弾
後半に入り、57分に試合の均衡が破れる。バレンシアのダニ・ラバがアシストを供給し、ディエゴ・ロペスがこれを決めてホームチームが1-0とリードを奪った。メスタージャは歓喜に沸き、レアル・ソシエダの有望なスタートは危機に瀕した。
しかし、バレンシアのリードは長くは続かなかった。わずか3分後の60分、久保が同点弾を叩き込む。この一撃は、欧州メディアから一様に称賛された。バレンシアの公式サイトのマッチレポートでさえ、「ペナルティエリアの端からのシュートでバレンシアCFの守備陣を驚かせた」と記述している。スペインの通信社EFEは、このゴールをセルヒオ・フランシスコ監督のチームに最初の勝ち点をもたらした「ゴラッソ(スーパーゴール)」と表現。『Mundo Deportivo』もまた、アシストを記録したブライス・メンデスのドリブルから生まれた「ゴラッソ・デスデ・ラ・フロンタル(エリア外からのスーパーゴール)」と称えた。
メディアの報道で特に強調されたのは、失点後の反応の速さだった。ラ・リーガの公式サマリーは、久保がバレンシアのゴールを「rápidamente neutralizó(素早く無力化した)」と記している。『AS』紙は、このゴールを救出劇として描き、「Kubo rescata a la Real(クボがラ・レアルを救う)」、「Kubo evita el debut soñado del Valencia(クボがバレンシアの夢のデビューを阻止)」といった見出しを掲げた。これらの表現は、彼を単なる得点者としてではなく、チームの結果を独力で救った選手として位置づけている。
このゴールは、単なる同点弾以上の価値を持っていた。新監督のセルヒオ・フランシスコは、初陣で先制点を許し、即座にプレッシャーに晒された。もし敗れていれば、「アルグアシル後の時代」に対するネガティブな論調がすぐに形成されただろう。しかし、失点からわずか3分後の久保のゴールは、その危機的状況を一瞬で払拭した。この一撃は、「新監督フランシスコ、初陣でつまずく」という否定的な物語を、「久保の輝きが新体制のラ・レアルに貴重な勝ち点をもたらす」というより力強い物語に書き換えた。この一つのプレーが、新体制に貴重な時間的猶予と肯定的な報道をもたらし、スコアシート上だけでなく、クラブの物語を形成する上でも久保がいかに重要であるかを示したのである。
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第3章:欧州メディアによる久保建英のパフォーマンス分析
スペインメディアの論調は、久保がレアル・ソシエダの攻撃における中心的役割を担っていたという点で一致している。スポーツ専門サイト『El Desmarque』は選手採点において、チームのパフォーマンスは「バレネチェアの推進力と久保の才能によって支えられていた」と述べ、チーム最高級の評価を与えた。これは、彼がチームのプレーの根幹をなす存在であると明確に位置づけるものだ。
この評価を裏付けるのが、『AS』が提示した強力なデータである。「久保はレアル・ソシエダでのラ・リーガ102試合で30ゴールに関与しており(22ゴール、8アシスト)、これは2022-23シーズン以降、クラブのどの選手よりも多い数字である」。この統計は、彼が長期的に見てチームで最も生産性の高い攻撃的選手であることを、議論の余地なく証明している。
一方で、欧州のサッカーファンの間では、チームが彼の個人技に過度に依存しているのではないかという、より批判的な見方も生まれている。欧州の著名なサッカーフォーラムReddit(r/soccer)のあるコメントは、この感情を的確に表現している。「監督もシーズンも新しいが、戦術は相変わらず。『うちはダメだが、クボが何かしてくれるか見てみよう』って感じだ(笑)」。これは、チームの攻撃戦略が単純で、久保がゼロから何かを生み出すことに頼りすぎていると見なされていることを示す、ファンからの率直な意見である。
しかし、興味深いことに、多くのメディアが久保を称賛する一方で、公式のマン・オブ・ザ・マッチ(MVP)には選ばれなかった。カタルーニャの新聞『La Vanguardia』は、試合のライブ速報の中で、バレンシアのキャプテンであるホセ・ルイス・ガヤを「¡’MVP’ del partido!」と明確に指名している。
この事実は、重要な視点を提供する。久保のゴールは試合で最も決定的で重要な「瞬間」であったが、公式MVPが相手チームのディフェンダーに与えられたことは、90分間を通じたガヤのパフォーマンス(前半のブライス・メンデスの決定機を防いだプレーを含む)が、より総合的で安定していたと評価されたことを意味する。つまり、欧州の視点は、久保を結果を左右するゲームチェンジャーとして認識しつつも、試合全体をコントロールする安定した守備の卓越性も同様に高く評価していることを示している。これは、「瞬間の選手」と「試合の選手」を区別する成熟した見方である。
主要欧州メディアの久保建英に対する評価
AS(スペイン) 「Kubo rescata a la Real(クボがラ・レアルを救う)」。2022年以降のクラブ内最多ゴール関与数を引用。久保をチームの救世主であり、統計上最も重要な攻撃選手と位置づけ。
Mundo Deportivo(スペイン) ラ・レアルが優勢だった試合で、引き分けを確保した「ゴラッソ」。ゴールの質を称賛し、少なくとも勝ち点1に値したチームへの正当な報酬として位置づけ。
El Desmarque(スペイン) チームのパフォーマンスは「久保の才能によって支えられていた」。チーム全体のパフォーマンスが彼の個人技に依存していることを示唆する、彼の根本的な重要性を示す強い言明。
EFE(スペイン通信社) 新監督セルヒオ・フランシスコに最初の勝ち点をもたらした「ゴラッソ」。クラブの新監督時代という文脈におけるゴールの重要性を強調。
Reddit(r/soccer – ファン) 「戦術は相変わらず、『クボが何かしてくれるか見てみよう』」。彼の才能を認めつつも、戦術的な過度な依存を指摘する、批判的なファンの視点を代表。
La Vanguardia(スペイン) 彼のゴールを報じるも、公式MVPはバレンシアのホセ・ガヤと明記。久保のゴールが決定的だった一方で、90分を通じた総合的なパフォーマンスでは別の選手が優れていたと評価されたことを示す。
「久保建英選手の最新試合結果については、レアル・ソシエダ公式サイトをご覧ください。」
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