攻守に宿るヒーローの輝き:清宮幸太郎、価値ある一発と神技でファイターズを交流戦Vへ導く

グランドとボール プロ野球

2025年6月21日、バンテリンドームは息詰まるような緊張感に包まれていた。北海道日本ハムファイターズが中日ドラゴンズを3-2で下したこの一戦は、単なる1勝以上の意味を持っていた。これは、新庄剛志監督が目標に掲げた交流戦11勝目を達成し、悲願の交流戦優勝へ望みをつなぐ重要な勝利であった。さらに、12球団最速でシーズン40勝に到達し、パ・リーグ首位の座を固め、2位とのゲーム差を今季最大の3.5に広げる、まさにチームの勢いを象徴する一勝だった。

この重圧のかかる試合の主役は、疑いようもなく清宮幸太郎だった。彼の貢献は、単にスコアブック上の記録にとどまらない。試合の流れを引き戻す一振り、そして絶体絶命のピンチを救う一つの守備。そのすべては、新庄監督の「勘ピューター」と称される采配によって完璧に演出されていた。

「新庄流」の電光石火と息詰まる投手戦

試合は初回から「BIGBOSS野球」の真骨頂を見せつけた。ファイターズはドラゴンズのエース・高橋宏斗に対し、攻撃の手を緩めない。先頭の五十幡亮汰がセンター前ヒットで出塁すると、続く矢澤宏太が間髪入れずに左中間へ先制のタイムリー二塁打を放ち、わずか数分で試合の主導権を握った。

しかし、ファイターズの攻撃は力押しだけではない。1アウト一、三塁の場面で、5番・郡司裕也が完璧なセーフティースクイズを成功させ、2点目を奪取。長打による得点力と、緻密な戦略を駆使した「スモールベースボール」を融合させ、相手を揺さぶる。この攻撃の多様性こそが、今季のファイターズの強さの源泉である。

だが、ドラゴンズも黙ってはいない。初回以降続いていた均衡が破られたのは6回裏、ドラゴンズの4番・細川成也が放ったソロホームランでスコアは2-1に。球場の雰囲気は完全にドラゴンズへと傾き始めていた。

ターニングポイント:流れを断ち切る清宮の「心理的カウンターパンチ」

忍び寄る逆転の気配

7回表、スコアは2-1。ファイターズのリードはわずかに1点。ドラゴンズの反撃で球場のボルテージが最高潮に達する中、ファイターズの攻撃は先頭の五十幡、続く矢澤が高橋宏斗の前に連続三振に倒れる。2アウト走者なし。完全に相手に流れが傾きかけたこの場面で、清宮幸太郎は打席に向かった。

試合後、彼はこの時の心境を「このままだと相手に流れがいく。何とか出塁しよう」と語っている。チームの危機を肌で感じ、一身にプレッシャーを背負っていたのだ。

刹那の閃きが生んだ一撃

対する高橋は、この日最速タイの154キロのストレートを内角高めに投げ込んできた。並の打者なら詰まらされるか、ファウルにするのが精一杯の厳しいボール。しかし、清宮は違った。腕を巧みにたたみ、コンパクトなスイングでこの剛速球を捉える。打球は「技ありの一発」と呼ぶにふさわしい軌道を描き、ライトスタンド最前列へ吸い込まれた。

出場20試合ぶりとなる待望のシーズン5号本塁打。その衝撃は、マウンド上で両ひざに手をつき、がっくりとうなだれる高橋の姿が何よりも雄弁に物語っていた。スコアを3-1とし、傾きかけた流れを強引に引き戻す、千金の一発だった。

新庄監督の賛辞と真意:「マジでたまたま」に隠されたメッセージ

試合後、新庄監督はこの一打を「詰まっても切れず、うまく打った。広い球場で」と、その技術力を高く評価した。内角の厳しい球に対し、力任せではなく技術で対応した点を称賛したのだ。

神采配:冴えわたる「勘ピューター」と試合を決めた守備

「勘ピューター」が描いた勝利への設計図

この日のハイライトは、清宮の本塁打だけでは終わらなかった。終盤の守備固めにおいて、新庄監督の「勘ピューター」が驚異的な精度を見せる。この試合、三塁手として先発出場していた清宮は、終盤に一塁へと守備位置を変更していた。これは単なる思いつきの交代ではなかった。

監督は試合後、その意図を詳細に明かしている。7回、本塁打を打った直後の清宮を三塁に残したのは、彼が「乗っている」状態で足の動きも良くなると読んだため。しかし、それは1イニング限定の策だった。「1イニングが終わったら、それが抜けるからファーストに変えようってことだけ」と、冷静に次の手を打っていたのだ。

この采配の的確さは、直後の8回に証明される。三塁へ抜けそうな痛烈な打球を、清宮に代わって三塁に入った奈良間大己が見事に好捕。監督はマウンド上で「あれ、でかいでしょ。(三塁が清宮)幸太郎だったら抜けてるよ」と語り、自らの采配の的中を確信していた。

相手の反撃シナリオを破壊したワンプレー

そして運命の9回裏。スコアは3-2。ファイターズは1点のリードを守り切れるか。中日の攻撃は、先頭打者の内野安打と暴投で、無死二塁という絶好のチャンスから始まった。誰もが送りバントを確信する場面。

打者・石伊がバントの構えから一塁前へ打球を転がす。その瞬間、一塁手の清宮が「猛チャージ」をかけた。ボールを掴むと、彼は迷わず一塁ではなく三塁へ矢のような送球を見せる。誰もが息をのんだクロスプレー。判定はアウト。中日ベンチはすかさずリクエストを要求するが、リプレー検証の結果、判定は覆らなかった。相手が描いた「無死二塁から送りバントで一死三塁」という最も確実な得点パターンを、清宮がその判断力と強肩で粉砕した瞬間だった。

守備での成長が証明された瞬間

このビッグプレーに対し、新庄監督は「あれもうまかった!」と手放しで称賛した。本塁打への「うまく打った」という賛辞と見事に呼応するこの言葉は、この日の清宮が攻守両面で試合のヒーローであったことを示している。

このプレーの価値は計り知れない。これまで打撃面での貢献が注目されがちだった清宮が、試合の勝敗を左右する最終回の極限のプレッシャーの中で、アスリート能力と野球IQの高さが求められるプレーを完璧に遂行した。これは、彼が単なるスラッガーから、守備でもチームを勝利に導ける真の「ツーウェイ・プレーヤー」へと進化を遂げつつあることを証明する、キャリアにおける画期的なプレーだったと言えるだろう。

最後の嵐を乗り越えて

清宮の神技で最大のピンチを脱したかに見えたが、試合はまだ終わらない。守護神・柳川は、その後、敬遠四球と四球で2アウト満塁のピンチを招いてしまう。一打逆転サヨナラの場面。バンテリンドームのボルテージは最高潮に達した。最後の打者・村松を開人がライトフライに打ち取った瞬間、ファイターズナインは安堵の表情を浮かべた。薄氷の勝利だった。

フルマッチはDAZNでご覧いただけます

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