2025年6月20日(金)、バンテリンドーム ナゴヤ。セ・パ交流戦も佳境に入ったこの日、野球の醍醐味が凝縮されたかのような、息詰まる投手戦が繰り広げられた。北海道日本ハムファイターズが中日ドラゴンズを1-0で下したこの一戦は、スコアボードに刻まれた数字以上に、一人の投手の固い決意と、それを信じた指揮官との間に交わされた知られざる物語に彩られていた。
エース伊藤大海投手がマウンドで示した「有言実行」のピッチング。それは、チームを勝利に導いただけではなく、新庄剛志監督が築き上げようとする「ファイターズ野球」の理想形を体現する、象徴的な9イニングとなった。
息詰まる投手戦 – 両エース、譲らず
試合は序盤から、両投手が互いに一歩も譲らない緊迫感あふれる展開となった。
大野投手は、持ち前の精密なコントロールと緩急を織り交ぜた投球で、ファイターズ打線を完璧に手玉に取る。初回から5回まで、許した安打はわずか1本。ファイターズ打線は好機らしい好機を作ることすらできず、スコアボードには淡々と「0」が並んでいった。
一方の伊藤投手も、ドラゴンズ打線に付け入る隙を与えない。2回裏にはボスラー選手、細川成也選手に連打を浴び一死一、二塁のピンチを招くも、続く板山祐太郎選手を冷静にセカンドゴロ併殺打に打ち取り、無失点で切り抜ける。その後も走者を許しながらも、要所を締めるピッチングで得点を許さない。両投手の気迫がぶつかり合う投手戦は、試合中盤まで0-0のまま、張り詰めた空気の中で進行していった。
均衡を破った一瞬の閃き – 6回の攻防
試合が動いたのは6回表。この試合唯一の得点シーンは、ファイターズが誇るスピードと、勝負強さが凝縮されたものだった。
この回の先頭打者は、俊足が武器の1番・五十幡亮汰選手。大野投手の投じたボールを捉えた打球は、ライト線を鋭く破る。五十幡選手は一塁を蹴ると一気に加速、快足を飛ばして悠々と三塁へ到達するスリーベースヒットを放った。無死三塁という、この試合で初めて訪れた絶好のチャンス。ここで打席に立ったのは、2番の清宮幸太郎選手だった。
「いそさん(五十幡)が三塁まで走ってくれたおかげで、楽に打席に入ることができました」と後に語った清宮選手。最低でも外野フライが求められるこの場面で、彼は完璧な仕事をやってのける。大野投手のボールに食らいつき、ライトへ十分な飛距離の犠牲フライを打ち上げた。三塁走者の五十幡が悠々とホームイン。ついに、重苦しい均衡が破られた。
わずか1点。しかし、この日の伊藤大海にとっては、それで十分すぎるほどの援護点だった。
エースの覚悟 – 9回112球の熱投
虎の子の1点を背にした伊藤投手は、ここからさらにギアを上げる。6回裏を三者凡退に抑えると、圧巻だったのは7回裏。中日のクリーンアップ、4番ボスラー選手から始まる打順を、なんと三者連続三振に斬って取る圧巻の投球を見せつけた。
その覚悟は、マウンド上だけでなく打席でも示された。8回表、先頭打者として打席に立った伊藤投手は、バッターボックスの一番端、ホームベースから極端に離れた位置に立った。それは、無駄な体力を使わず、何としても9回のマウンドに上がるという強烈な意志表示だった。この姿に、球場はざわめき、ファンはエースの完封への執念を感じ取った。
そして迎えた最終回。1点リードの9回裏、伊藤投手は先頭の上林誠知選手にこの日5本目となるヒットを許す。一死後、岡林勇希選手への四球を出し、一死一、二塁。一打サヨナラのピンチを迎えた 。球場のボルテージが最高潮に達する中、伊藤投手は少しも動じなかった。続くボスラー選手をファウルフライに打ち取ると、最後は代打のブライト健太選手をセンターフライに仕留めゲームセット。マウンド上で力強くガッツポーズを見せた。
9回を投げ抜き、被安打5、奪三振7、与四球わずか1、球数112球での見事な完封勝利。この勝利で伊藤投手は今季7勝目(4敗)を挙げ、リーグ単独トップに躍り出た。
試合後の告白 – 新庄監督が明かした「1点で十分」の約束
試合後、新庄監督の口から、この日の伊藤投手の快投の裏にあった驚くべきエピソードが明かされた。それは、試合前に交わされた、監督とエースの間のダイレクトメッセージ(DM)でのやり取りだった。
「大海が投げる時は1点あれば十分ですよっていうピッチングをみせるのでみといてくださいってきました。僕は『嘘やん』って絵文字を送っておきました」
新庄監督は笑いながら、この秘話を披露した。伊藤投手は自ら「1点あれば勝てる」と宣言し、その言葉通りのピッチングを、プレッシャーのかかる敵地での投手戦で見事に実現してみせたのだ。これぞまさに「有言実行」。
指揮官は、エースの精神的な強さをこう称賛する。「そりゃみんな、いい投球して負けていられない。俺が投手陣を引っ張るという気持ちが強い子なんで。きょうはなんとしても、完投、完封したかったと思う。」
この勝利は、新庄監督が今季掲げる「完投王国21」という壮大な目標に向けた、大きな一歩でもあった。この日の伊藤投手の完投で、チームのシーズン完投数は14に到達。リリーフ陣に頼る現代野球の潮流とは一線を画し、先発投手が最後まで投げ抜くことの価値を追求する新庄野球。その哲学を、エース自らが最高の形で証明して見せたのだ。
おまけ:今日の清宮幸太郎
2打数0安打1四球。
だが、チーム唯一の得点となる犠牲フライを打つ。
さあ、ようやく、皆が打てない時に打ってくれる頼もしい清宮が戻ってくるか?
引き続き、応援してます。
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