達孝太がプロ初完封、清宮幸太郎が決勝弾。それでも、ホークス優勝の日に刻んだのは「悔しさ」と「次への誓い」。

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序章:歓喜の裏で噛み締めた、ほろ苦い勝利

2025年9月27日、北海道日本ハムファイターズはZOZOマリンスタジアムで千葉ロッテマリーンズを2-0で下した 。しかし、時を同じくして、福岡ソフトバンクホークスが所沢で勝利を収め、パ・リーグの優勝を決定した 。ファイターズにとって、この日は若き才能の躍動を確かめる価値ある一勝と、ペナントレースの終焉という現実が同時に突きつけられた日となった。  

他球場から届いたホークス優勝の一報。それは、ファイターズにとって、今シーズンのペナントレースの終わりを告げる、残酷な知らせでもあった。達孝太のプロ初完封と清宮幸太郎の決勝ホームランによる勝利は、確かに価値あるものだ。しかし、それを手放しで喜ぶことはできない。なぜなら、目指していた頂に立ったのが自分たちではなかったからだ。この日の勝利は、未来への希望の光であると同時に、王者との差を突きつけられた「悔しさ」そのものだった。ただ、悔しい。しかし、この悔しさを胸に刻み、若き力が示した確かな手応えを信じて、前を向くしかない。ファイターズの本当の戦いは、ここから始まる。

圧巻の投手戦:達孝太と種市篤暉、互いに譲らぬ9イニング

この日の試合の主役は、両チームの先発投手だった。ファイターズの達孝太とマリーンズの種市篤暉。二人が繰り広げた投げ合いは、シーズンのハイライトの一つに数えられるべき、息詰まる投手戦となった。

達孝太、キャリアの新たな一歩

ファイターズの先発、達孝太は、まさにキャリアを代表する快投を見せた。9回を一人で投げ抜き、プロ入り後初となる完投、そして初完封勝利を達成した 。その投球内容は、彼の成長を雄弁に物語るものだった。125球を投じ、許した安打はわずか6本。5つの三振を奪い、そして何より特筆すべきは、与えた四死球がゼロであったことだ 。  

無四死球という結果は、達が試合を通してマウンド上で абсолютное (アブソリュート) な支配力を発揮していたことの証左である。相手に不要な走者を与えず、常に打者との勝負に集中し続けた。特に圧巻だったのは最終回。勝利の懸かる9回裏を、わずか9球で三者凡退に仕留め、試合を締めくくった 。この土壇場での冷静さと効率性は、彼が単なる若手有望株から、チームを勝利に導く真のエースへと変貌を遂げつつあることを示していた。  

敗れた好敵手、種市篤暉の力投

達の偉業をさらに価値あるものにしたのは、対戦相手である種市篤暉の存在だ。彼もまた、敗れはしたものの、称賛されるべき圧巻のパフォーマンスを披露した。種市も同じく9回を完投し、128球の熱投を見せた 。  

この日の種市は、奪三振の山を築いた。ファイターズ打線から自己最多を更新する15個もの三振を奪ったのである 。初回から2回にかけて4者連続三振を記録し、4回には三者連続三振。その投球は支配的であり、ファイターズ打線にほとんど隙を与えなかった 。許した安打はわずか4本、与四球は1つ。これだけの投球をしながらも、彼は敗戦投手となった。野球というスポーツの非情さ、そして勝敗を分けるのがいかに紙一重であるかを物語る結果だった。  

この日の勝利は、単に達が好投したという事実だけでは語れない。キャリア最高の投球を見せた相手エースとの直接対決を制したからこそ、その価値は計り知れないものとなる。達は、相手が完璧に近い投球を続ける極限のプレッシャーの中で、それを上回る完璧さで応え、勝利を手繰り寄せた。それは、彼が厳しい試合を勝ち抜く力を持った投手であることを証明する、何よりの証となった。

静寂を破る一撃:清宮幸太郎、勝負を決めた12号

両投手が支配する静寂のグラウンドで、均衡を破ったのはファイターズの主砲、清宮幸太郎の一振りだった。

試合が動いたのは2回表、一死走者なしの場面 。打席に立った清宮は、種市の投じた153 km/hの速球を完璧に捉えた。打球は美しい放物線を描き、右中間スタンドへと吸い込まれた 。これが今シーズン第12号となる先制のソロホームランであり、最終的に試合の行方を決定づける決勝点となった 。  

この一打の価値は、対戦相手が種市であったこと、そして捉えた球が彼の決め球である速球だったことで一層高まる。試合後のインタビューで清宮は、「それまでのバッターへの攻め方を見ながら、最後に真っすぐが来るかなという感じはしていました。うまくそこに合わせられたかなと思います」と語った 。相手投手の配球を読み、その上で150 km/hを超える威力あるボールを打ち砕いた、まさに技術と読みの勝利だった。  

この試合、ファイターズの得点はこの1点と、3回に生まれたもう1点のみ 。投手戦においては、たった一度の好機をものにできるかどうかが勝敗を分ける。清宮のホームランは、種市という難攻不落の要塞に唯一空いた小さな穴をこじ開け、チームに勝利をもたらす、千金の一撃だった。  

「投げるんかーい」:新庄監督、初完封へ向けた巧妙な演出

9回裏のマウンドに達が向かう直前、ファイターズベンチでは新庄剛志監督によるユニークな「演出」が行われていた。監督は試合後の一問一答で、その舞台裏を明かした。

8回を投げ終えた達のもとへ歩み寄った新庄監督は、交代を告げるかのように握手を求めた。この行為は、通常、投手の降板を意味する。監督自身がその狙いを「あれは多分解説者が、達君は終わりですねー。握手してますねー。で、いかせる(笑い)」と語るように、周囲の意表を突くためのものだった。

突然の握手に、達は「まじっすか」と驚きを隠せなかったという。その反応を見た監督は、すかさず「僕の手のパワーをあげにいって、完封いくぞって」と声をかけ、若き右腕を再びマウンドへと送り出した。この一連の流れを、監督は「投げるんかーいってオチ」と表現した。

この行動は、単なる気まぐれや奇策ではない。その根底には、選手への深い配慮と、彼のキャリアにとって重要なマイルストーンを達成させたいという強い思いがあった。監督はこうも語る。「本人はあんまりこだわってないかもしれないけど、新人王は1回しかとれないから」。この完封劇が、熾烈な新人王レースにおいて極めて重要な意味を持つことを、監督は誰よりも理解していた。

新庄監督のこの手法は、従来の指導者の枠には収まらない。それは、選手の心理を巧みに読み、最高のパフォーマンスを引き出すための「心理的シアター(劇場)」とも言える。交代を予感させてからの続投という揺さぶりは、達の集中力を極限まで高め、初完封という偉業への最後のひと押しとなった。それは、指示を与えるだけでなく、選手の感情と物語をマネジメントするという、新庄監督ならではの指導哲学の表れだった。

熾烈な新人王レースへの決定打

新庄監督が言及した通り、達のこの日の投球は、2025年シーズンのパ・リーグ新人王レースに大きな影響を与えるものとなった。今季の新人王争いは、シーズンを通してハイレベルな野手たちが牽引してきたが、達のこの「代表作」とも言える一戦は、その勢力図を塗り替える可能性を秘める。

9月27日時点での主要候補の成績は以下の通りである。

選手名 (Player)チーム (Team)主要成績 (Key Stats)
達 孝太 (Tatsu Kota)日本ハム8勝2敗、防御率2.12、プロ初完封
西川 史礁 (Nishikawa Misho)ロッテ打率.282、111安打、27二塁打、37打点
渡部 聖弥 (Watabe Seiya)西武打率.254、101安打、11本塁打、38打点
宗山 塁 (Muneyama Rui)楽天打率.264、107安打、3本塁打、25打点

各候補者には、それぞれ強力なアピールポイントがある。西武の渡部は新人離れした長打力が魅力で、リーグの新人では唯一の二桁本塁打を記録する 。ロッテの西川は、リーグトップクラスの27二塁打が示すように、コンスタントに安打を重ねる技術と勝負強さを誇る 。楽天の宗山は、遊撃手という負担の大きいポジションを守りながら安定した成績を残す 。  

しかし、新人王の投票は、数字の積み重ねだけでなく、シーズンを通してどれだけ強い印象を残したかという「物語性」も大きく影響する。野手が日々着実に数字を積み上げていくのに対し、投手の完封勝利、特にキャリア初となる大記録は、一度の登板で強烈なインパクトを与える「シグネチャー・パフォーマンス(代表的な実績)」となり得る。達がこの日見せた9イニングの完全な支配は、投票者の記憶に深く刻まれるだろう。シーズン終盤に見せたこの圧巻の投球は、数字だけでは測れない価値を持ち、新人王レースの行方を左右する決定的な一票となるかもしれない。

王者への敬意、そして未来への誓い

ファイターズが若き力の躍動で勝利を掴んだ同日、ホークスは有原航平の13勝目となる好投などで西武を下し、リーグ連覇を達成した 。シーズンを通して安定した強さを見せつけた王者の戴冠は、当然の結果と言えた。  

この結果を受け、ファイターズの新庄監督は自身のインスタグラムを更新。ホークスの小久保裕紀監督の胴上げシーンと共に、率直な思いを綴った。「悔しくて悔しくて 言葉にするのは難しいけど 小久保監督 素直におめでとう 本当に強かった」。ライバルの強さを認め、敬意を表するその言葉には、勝者へのリスペクトが込められていた。

しかし、投稿はそれだけでは終わらない。続けて、こう宣言した。「しかし 実力の差は 間違いなく縮まってきてる!!」。これは単なる希望的観測や強がりではない。確かなデータに裏打ちされた、自信の表れである。

この投稿が指摘するように、ファイターズは2年連続の2位が確定したが、その内容は大きく異なる。昨シーズン、首位ホークスとのゲーム差は13.5だった。しかし今シーズン、その差は現状で5.0ゲームまで縮まっている。この数字は、ファイターズが着実に力をつけ、王者との距離を詰めていることを客観的に示す。そして、達の完封勝利と清宮の決勝ホームランというこの日の試合内容は、その数字の裏付けとなる何よりの証拠となった。

結論:悔しさを糧に、CS、そして来季へ

9月27日という一日は、ファイターズにとってペナントレースの終焉を意味すると同時に、新たな挑戦の始まりを告げる日となった。リーグ優勝という目標は来季以降に持ち越されたが、達孝太と清宮幸太郎が見せたパフォーマンスは、チームの未来が非常に明るいものであることを明確に示した。

この日の勝利は、新庄監督が築き上げてきたチームの姿そのものを象徴していた。若き才能が重要な局面で臆することなく実力を発揮し、それを信じ、後押しする指揮官がいる。この好循環が、チームを確かな成長軌道に乗せる。

監督が口にした「悔しさ」は、決してネガティブな感情ではない。それは、間もなく始まるクライマックスシリーズ、そして来シーズンへの戦いに向けた、最も強力な燃料となるだろう 。2025年のパ・リーグの王者は福岡ソフトバンクホークスに決まった。しかし、北海道日本ハムファイターズは、その王者が誕生したまさにその日に、自分たちが明日の王者となるための準備が整いつつあることを、力強く証明して見せたのである。

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