エースの証明、苦しみ抜いた両リーグ最速10勝目
2025年7月19日、楽天モバイルパーク宮城のマウンドで、北海道日本ハムファイターズのエース・伊藤大海投手は、その真価を証明した。7回を投げ抜き、今季10勝目を達成。これはセ・パ両リーグを通じて最速の到達である。しかし、その記念すべき勝利の道のりは、決して平坦なものではなかった。それは、安打を浴びながらも決して屈しない、エースの魂が凝縮されたかのような「粘投」の結晶であった。
この日の伊藤投手は、決して絶好調ではなかった。楽天打線に再三捉えられ、許した安打は実に11本。ほぼ毎回のように走者を背負う、苦しいマウンドとなった。初回、二死から連打を浴びて一、二塁のピンチを招くと、2回裏には無死一、三塁から併殺打の間に同点となる1点を失う。3回裏にも二死から連打で一、二塁と、常に得点圏に走者を置く展開が続いた。
それでも、伊藤投手は崩れなかった。走者を出すたびにギアを上げ、要所を締めるピッチングで楽天打線に追加点を許さない。4回、5回、6回と、安打で走者を出しながらも、後続を断ち切ってスコアボードに「0」を刻み続けた。
この日の投球のハイライトは、5-1で迎えた7回裏に訪れた。伊藤投手は先頭打者に二塁打、一死後にも内野安打を許し、一死一、二塁の絶体絶命のピンチを迎える。さらに二死後、代打ボイト選手にタイムリーヒットを浴び、点差は3点に縮まった。なおも二死一、二塁、一打が出れば試合の流れが完全に変わってしまう緊迫した場面で、コーチがマウンドへと向かう。球数は120球を超えていた。
しかし、ベンチも、そして伊藤自身も、ここでマウンドを降りる選択はなかった。続投した伊藤投手は、6番・小郷選手に対し、この日123球目となる渾身の力を振り絞る。投じられた151km/hのストレートは、相手打者のバットを凍りつかせ、見逃し三振。その瞬間、伊藤投手は右手で力強くグラブを叩き、雄叫びを上げた。それは、自らの力でピンチを切り抜け、10勝目を手繰り寄せたエースの咆哮だった。
試合後、新庄剛志監督は「とりあえず2桁(勝利)はクリアはしましたけど、完投できなかったのは本人のミスですね。球数が多いのは。これは反省してもらわないと。完投王国の一員としてはね」と、ねぎらいと課題をセットで提示。エースに対する期待の高さをあらためて感じさせる言葉だった。
流れを呼び込む一撃!フランミル・レイエス、独走の20号
エースが苦闘する中、試合の流れを再びファイターズに引き寄せたのは、主砲フランミル・レイエス選手の一振りだった。2回に同点に追いつかれ、球場の雰囲気がやや楽天に傾きかけた直後の3回表、先頭打者として打席に入ったレイエス選手は、楽天先発・古謝樹投手の投じたボール気味の高めの直球を完璧に捉えた。打球はライトスタンドに突き刺さる、勝ち越しのソロホームランとなった。
この一発は、パ・リーグ本塁打ランキングで独走状態を築く第20号アーチであり、レイエス選手にとっては2年連続となる20本塁打達成の節目でもあった。試合後、レイエス選手は「ホームランが出にくい球場なので、その特性を理解して、強いライナーを打つ意識で打席に入りました。結果的にホームランになってよかったです」とコメント。ただ闇雲に振り回すのではなく、球場の特性まで考慮したクレバーな打撃アプローチが、最高の結果を生んだことを明かした。
この日のレイエス選手は、この本塁打だけに留まらず、初回にもヒットを放つなど、猛打賞となる3安打を記録。これで5試合連続安打、そのうち3試合で本塁打を放つなど、まさに手がつけられない状態だ。
眠れる大砲、覚醒の2連発!万波中正、杜の都に描いた美しい放物線
レイエス選手が流れを呼び込むと、今度はもう一人の大砲が目を覚ました。6月28日以来、16試合にわたって本塁打から遠ざかっていた万波中正選手だ。ファンが待ちわびた一発は、最も効果的な場面で飛び出した。
2-1と1点リードで迎えた6回表一死、万波選手は楽天の2番手・西垣投手が投じた内角の149km/hの直球を強振。打球は長い滞空時間を経て、レフトスタンド中段へ吸い込まれた。待望の第15号ソロホームランは、試合中盤の貴重な追加点となり、リードを2点に広げた。この一発に、万波選手は「誠にうれしいです」と、実直な言葉で喜びを表現した。
しかし、この日のショーはまだ終わらなかった。4-1で迎えた7回表、二死走者なしの場面で再び打席に立つと、今度は2-0という打者有利のカウントから、再びレフトスタンドへ豪快な一発を叩き込んだ。2打席連続となる第16号ソロホームランで、スコアは5-1に。完全に眠りから覚めた大砲の2連発が、試合の趨勢を決定づけた。
試合後のヒーローインタビューで、万波選手は「オールスター前にホームランが出てよかった」と安堵の表情を見せ、夏休みの子供たちに向けて「宿題を後回しにして苦しんできたので、早めにやって試合にいっぱい来てください」とユーモアあふれるメッセージを送り、ファンを沸かせた。
新庄監督も「良かったね」と満面の笑みで祝福。「あの1本(目の本塁打)でガラっと(打席の雰囲気が)変わったでしょ。最後のライトフライなんかも良かったし。ちょっと安心しました」と、復調の兆しを見せる背番号66に目を細めた。
勝利を盤石にした脇役たち
もちろん、この勝利は投打のヒーローだけで成し遂げられたものではない。初回、一死一、三塁のチャンスで、4番に座った郡司裕也選手がしぶとくセンター前に運び、貴重な先制点を叩き出した。この一打が、チームに序盤の主導権をもたらした。
そして、伊藤投手の後を受けた救援陣の働きも完璧だった。8回は田中正義投手が、9回は柳川大晟投手が、それぞれ楽天打線を三者凡退にピシャリと抑え、一切の反撃の隙を与えなかった。盤石のリレーが、エースの汗と涙が詰まった10勝目を、確実なものにしたのである。
「計算通り」でも、まだ先へ
これで前半戦は残り2試合。目標の「貯金21」に向けて王手をかけた形だが、新庄監督は「もうあんま(貯金21は)興味ないかな」と、らしさ全開の一言。
「その付近に行ってしまえば計算通りなので。21が絶対ではないので。十分でしょ。まあ1勝1敗ぐらいの気持ちで…2勝とりにいきます(笑い)」と語り、笑いの中に確かな手応えをにじませていた。
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