敵地で示した力と風格、交流戦で見せた「新庄野球」の神髄
2025年6月17日、東京ドーム。セ・パ交流戦の舞台で、対照的な状況にある2チームが激突した。片や連勝で勢いに乗り、貯金を積み上げる北海道日本ハムファイターズ 。もう一方は3連敗と泥沼にあえぐ読売ジャイアンツ 。試合は4対1でファイターズが勝利を収めた。試合を決定づけた一瞬の爆発力と、揺るぎない投球の両輪にスポットを当て、この一戦を振り返る。
ビッグバン打線の再来か、1イニング3ホーマーの衝撃
試合を支配した魔の2回
試合の均衡は、あまりにも鮮やかに、そして暴力的に破られた。0対0で迎えた2回表、マウンドには巨人の先発・井上温大。この回、ファイターズ打線が牙を剥いた。
まず、先頭の石井一成が安打で出塁し、攻撃の狼煙を上げる。そして打席には万波中正。フルカウントからの1球を完璧に捉えた打球は、右中間スタンドへと突き刺さる先制の13号2ランホームランとなった。この一撃で試合の空気は一変した。試合後、万波は「良い感触でした。先制点を取れてよかったです」と冷静に振り返ったが、この一発がチームにもたらした勢いは計り知れない。
だが、衝撃はこれで終わらない。続く打席の伏見寅威が、2球目を左中間スタンドへ運ぶ2号ソロホームランを放ち、2者連続アーチを記録。これは、立ち直ろうとする巨人バッテリーの心を折るには十分すぎる一撃となった。
さらに2死後、今季絶好調の水谷瞬が打席に立つ。水谷もまた、ライトスタンドへ2試合連続となる4号ソロを叩き込み、この回3本目のホームランを記録した。わずか1イニングで3本塁打、一挙4得点。この猛攻は、試合の勝敗を事実上決定づけた。
歴史と文脈が示す一撃の重み
この1イニング3本塁打は、ファイターズにとって2018年4月7日のロッテ戦以来、実に7年ぶりの快挙であった。そして特筆すべきは、その7年前の記録もまた、この東京ドームで生まれていることだ。これは単なる偶然ではなく、この球場が持つ特性とファイターズの攻撃スタイルとの相性の良さを示唆している。
この日の爆発は、今季の両リーグ断トツの本塁打数を誇るファイターズ打線の真骨頂を示すものであり、かつて同じ東京ドームを本拠地として一世を風靡した「ビッグバン打線」の再来を思わせるものだった。
新庄監督の言葉に隠された戦略と人心掌握術
試合後、新庄剛志監督はこの猛攻について独特の表現で語った。
まず見せたのは、戦術家としての一面だ。「この球場は本当ホームラン入りますね。エスコンは右中間、左中間が深いけど、ここは右中間と左中間が狭いんで」。このコメントは、単なる感想ではない。ファイターズがリーグ屈指のパワーヒッティングチームであること、そして過去にもこの球場で同様の記録を残していることを踏まえれば、これは試合前から球場の特性を最大限に利用しようという、明確な戦略があったことの証左と言える。攻撃的な打撃を奨励し、狭い東京ドームの「地の利」を活かすというゲームプランが、この結果を生んだのだ。
一方で、人心掌握に長けたモチベーターとしての顔も覗かせた。3試合ぶりにスタメン起用した万波の一発を「僕の作戦」と称し、伏見には「2本打てって言うてるのに笑」と冗談めかして檄を飛ばす。これらの軽妙なコメントは、選手の功績を称えつつもプレッシャーを和らげ、チーム内にポジティブで風通しの良い雰囲気を作り出す、計算された新庄流のリーダーシップの表れである。
この2回の攻撃は、単に試合を優位に進めただけではない。先制、連続、そしてダメ押しという完璧なシーケンスで放たれた3本の本塁打は、相手先発・井上の心理を揺さぶり、その後の巨人打線の「つながりを欠いた」攻撃にも繋がる、心理的なダメージを与える攻撃となったのである。
動じない若きエース、達孝太の歴史的快進撃
試練を乗り越えて掴んだ4勝目
打線が強烈な援護をした一方、マウンドでは若き右腕・達孝太が圧巻の投球を見せた。序盤3回を被安打1に抑える完璧な立ち上がりを見せる 4。
しかし、真価が問われたのは4回裏だった。連続四球からピンチを招き、増田陸にタイムリーヒットを浴びて1点を失う。この失点は、達にとってこの試合唯一の「汚点」となったが、むしろこの場面こそが彼の成長を証明する瞬間だった。完璧な投球も素晴らしいが、逆境に立たされ、失点した後にどう立ち直るか。そこに真のエースの資質が表れる。
達は動じなかった。続く5回、6回を連続で三者凡退に抑え、試合の流れを完全に引き戻す。この見事な修正能力こそ、彼が持つ精神的な強さの証明だ。最終的に、達は6回3分の2を投げ、102球、被安打4、奪三振7、1失点という堂々たる内容でマウンドを降りた。
伝説の系譜に名を刻む快挙
この勝利で達は今季4勝目(無敗)を挙げ、プロデビュー以来の連勝を「5」に伸ばした。これは球団の生え抜き投手としては、2013年から14年にかけてのあの大谷翔平以来、11年ぶりの快挙である 12。
さらに専門的な視点で見れば、この記録の価値はより一層高まる。大谷のデビュー5連勝にはリリーフ登板での白星が含まれていたが、達はプロ初勝利から5つの白星すべてを先発登板で挙げている。これは球団史上初の快挙であり、彼が先発投手としていかに傑出した存在であるかを物語っている 14。
この歴史的な記録について、達本人は「そんな(偉大な)方と一緒にしないでください」と、偉大な先輩との比較に恐縮しきりだったが、その表情には確かな自信が満ち溢れていた。
監督が与える「次なる課題」という名の信頼
新庄監督の達に対するアプローチは、彼の成長戦略を如実に示している。試合前、監督は「ジャイアンツはパワー系が弱い」と分析し、達の巨人戦での先発を明言していた。これは若き右腕への絶大な信頼と期待の表れであり、達は見事にその期待に応えてみせた。
そして試合後、歴史的快挙を成し遂げた右腕に対し、監督は「完投してほしかった」と、あえて次なる高いハードルを提示した。これは決して満足せず、常に上を目指す姿勢を植え付けるための新庄流の育成術だ。公の場で期待をかけ、選手がそれに応える。そして、すぐに新たな挑戦を課す。このプレッシャーと信頼の連続的なサイクルこそが、達を真のエースへと鍛え上げているのである。
おまけ:今日の清宮幸太郎
4打数2安打。
直接得点には絡めなかったものの、マルチヒットで打率は.268まで上昇。
ジリジリあげてきてます。
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