崖っぷちからの逆王手!新庄ファイターズ、猛攻7-1で鷹を沈め、運命の最終決戦へ チーム

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I. 奇跡への舞台は整った

王者のアドバンテージ1勝を含め、0勝2敗。誰もが北海道日本ハムファイターズのシーズンの終わりを覚悟したであろう、崖っぷちの状況から、信じられないドラマが生まれようとしている。ペナントレースを制した福岡ソフトバンクホークスに対し、ファイターズはそこから怒涛の2連勝を飾り、シリーズ成績を2勝2敗のタイに戻してこの第5戦に臨んだ。

試合前のシリーズ成績を見ても、その勢いは明らかだった。チーム打率はホークスの.220に対しファイターズは.268、本塁打も3本に対し6本と、打線が完全に覚醒していることを示していた。かつて新庄剛志監督が語った「4つ勝てばドラマになる」という言葉が、現実味を帯びてきたのだ。

この一戦は、ホークスが勝てば日本シリーズ進出が決定し、ファイターズが勝てばアドバンテージを含め3勝3敗のタイとなり、運命の最終戦に持ち込まれる「逆王手」がかかる大一番だった。本来であれば、追い詰められた挑戦者であるファイターズにこそ重圧がかかるはずだった。しかし、すでに2連勝という「奇跡」を起こしていた彼らは、失うものは何もないという自由さと、確固たる勢いを身にまとっていた。逆に、予想外の反撃に遭い、絶対的有利な状況から一転してシリーズ敗退の危機に瀕した王者ホークスにこそ、目に見えないプレッシャーがのしかかっていた。この心理的な優位性の逆転こそが、この日の試合展開を予兆していたのかもしれない。

II. 不吉な幕開け:山縣を襲った悲劇

39,410人の大観衆が詰めかけたみずほPayPayドーム。その喧騒は、初回裏に起きた一つのプレーによって、息をのむ静寂へと変わった。

ファイターズの攻撃は三者凡退に終わり、迎えたその裏のホークスの攻撃。1アウトから2番・周東佑京が四球で出塁する。続く柳町達の打席、ホークスが誇る「足のスペシャリスト」がスタートを切った。二塁盗塁は成功したが、その代償はあまりにも大きかった。ベースカバーに入ったファイターズの遊撃手・山縣秀と、滑り込んだ周東が激しく交錯したのだ。

両選手がグラウンドに倒れ込み、試合は中断。周東は苦悶の表情を浮かべながらも治療を経てプレーに復帰したが、山縣は自力で立ち上がることができなかった。トレーナーが駆け寄り、しばらくして担架が運び込まれる。チームメイトや満員の観客が見守る中、山縣は担架に乗せられてグラウンドを後にした。ファイターズにとって、これ以上ないほど不穏な試合の幕開けだった。

その後、球団は山縣が福岡市内の病院で「左大腿部挫創」と診断され、縫合処置を終えたと発表した。この緊急事態を受け、ファイターズベンチはすぐさま動く。石井一成が二塁手として急遽出場し、二塁を守っていた水野達稀が本職の遊撃へとシフトした。

しかし、この衝撃的なアクシデントは、チームの士気を下げるどころか、むしろ見えざる結束力を生み出したように見えた。チームメイトの痛みを目撃し、相手の武器である積極的な走塁によって引き起こされたこの事態は、「山縣のために勝つ」という静かで、しかし強力な闘志に火をつけた。その証拠に、ファイターズの投手陣はこの回、盗塁した周東を三塁に背負いながらも、4番・柳田悠岐を空振り三振に斬って取り、無失点で切り抜けた。このプレーは、逆境を力に変えるというチームの決意表明そのものだった。

III. 嵐の前の静けさ:息詰まる投手戦(1〜3回)

試合序盤は、両チームの先発投手による緊迫した投手戦となった。ファイターズの先発マウンドに上がった台湾出身の右腕、古林睿煬は、初回のピンチを切り抜けると、その後もホークスの強力打線を相手に堂々たるピッチングを披露。5回途中までを2安打無失点に抑え込み、敵地の雰囲気を完全に支配した。

対するホークスの先発・大津亮介も、序盤はファイターズ打線に的を絞らせなかった。特に2回と3回は一人の走者も許さない完璧な投球で、試合は1本のヒット、1つのミスが勝敗を分ける典型的なポストシーズンの様相を呈していた。柳田や山川といった主軸打者が三振に倒れるなど、両投手が持ち味を発揮し、スコアボードにはゼロが並び続けた。球場全体が、均衡が破られるその瞬間を固唾をのんで見守っていた。

IV. 均衡を破る:ファイターズが試合を動かした瞬間(4〜5回)

静かな投手戦は4回、ついに終わりを告げる。そしてそれは、ファイターズによる一方的な猛攻の始まりだった。

A. 4回:忍耐と圧力、そして精度(3得点)

全ての始まりは、負傷した山縣に代わってグラウンドに立った石井一成のクリーンヒットだった。この一打が、ホークス先発・大津のリズムを微妙に狂わせる。ファイターズ打線は、ここから驚異的な選球眼を発揮。3番レイエス、4番郡司裕也が連続四球を選び、無死満塁という絶好のチャンスを作り出した。

この好機を、ファイターズは逃さない。

  • 清宮の先制打:5番・清宮幸太郎が放った打球はファーストゴロとなるも、三塁走者の石井が生還。派手さはないが、確実に1点を奪う。日本ハム 1-0 ソフトバンク
  • 田宮の犠飛:続く6番・田宮裕涼がレフトへきっちりと犠牲フライを打ち上げ、レイエスがタッチアップ。理想的な形で追加点を挙げる。日本ハム 2-0 ソフトバンク
  • 矢澤のタイムリーツーベース:ここで大津は降板。しかし、代わったヘルナンデスから8番・矢澤宏太がライト線へ痛烈なタイムリーツーベースを放ち、3点目を叩き出す。日本ハム 3-0 ソフトバンク

B. 5回:勝利を決定づけた猛攻(3得点)

ファイターズの猛攻は止まらない。5回、先頭の水谷瞬がヒットで出塁すると、石井が完璧な送りバントで二塁へ送る。すると、前回の攻撃をなぞるかのように、ホークス投手陣が再び制球を失う。ヘルナンデスがレイエスと郡司に連続四球を与え、2イニング連続となる満塁のピンチを招いた。

この試合最大のハイライトが訪れる。

  • 清宮の決定打:打席には清宮幸太郎。前の回は内野ゴロで1打点を挙げた男が、今度は満塁のチャンスで完璧に捉えた。打球はライト線を破る走者一掃の2点タイムリーツーベースに。二塁ベース上で満面の笑みを浮かべる清宮の姿が、試合の流れを物語っていた。日本ハム 5-0 ソフトバンク
  • 新庄采配の真骨頂:なおも1アウト二、三塁のチャンスで、新庄監督は攻撃の手を緩めない。田宮裕涼が絶妙なスクイズを敢行し、三塁走者が生還。日本ハム 6-0 ソフトバンク

V. 勝利へのダメ押しと、鷹の意地の一撃(6〜9回)

試合の主導権を完全に握ったファイターズは、6回にも攻撃の手を緩めない。先頭の万波中正がスリーベースヒットで出塁すると、相手のエラーの間に生還し、ダメ押しとなる7点目を追加した。日本ハム 7-0 ソフトバンク

盤石のリードを得たファイターズは、投手陣も完璧なリレーを見せる。5回途中から古林を救援した山崎福也が見事に火消し役を果たし、勝利投手になった。試合後、「投げる感じだったので準備はしていました」と語ったように、ブルペン陣の準備も万全だった。その後も加藤貴之、田中正義とつなぎ、ホークス打線に反撃の隙を与えない。

一方、ホークスも王者の意地を見せる。7回裏、主砲・山川穂高がセンターへ豪快なソロホームランを放ち、完封負けを阻止。ペナントを制したチームの底力を見せた一発だったが、反撃もここまでだった。

最終回、マウンドに上がった田中正義が最後の打者を空振り三振に仕留め、7-1で試合終了。ファイターズがエラー0に対し、ホークスは2つのエラーを記録したことからも、攻守にわたってファイターズがいかに盤石な試合運びをしたかが分かる。

VI. 「ワンモア」:新庄監督の雄叫びと、運命の最終決戦

試合後、新庄監督は右手で人差し指を立てながら、ただ一言、しかし力強く繰り返した。「ワンモア、ワンモア、ワンモア、ワンモア」。それは単なるコメントではなく、チームの勢い、自信、そして喜びを体現したパフォーマンスであり、選手とファンを一つにする最高のメッセージだった。

対照的に、ホークス陣営のコメントは冷静さを保とうとするものだった。小久保裕紀監督は「分かりやすい」「一騎打ちしてきたチームとやり切って」と語り、王貞治球団会長は「あしたはコイン投げみたいなもんだからさ」と述べた。3連敗という厳しい現実を直視せず、感情を排して「最後の一戦」に全てを懸けようとする意図がうかがえる。

こうして、最終決戦の舞台は整った。それは、フィールド上の戦いであると同時に、両チームが作り上げてきた「物語」の戦いでもある。新庄監督が作り上げた「奇跡のドラマ」という運命的な物語を信じて戦うファイターズ。対するホークスは、過去3戦を忘れ、「論理と確率」で目の前の一戦を制しようとする。

予告先発はファイターズが達孝太、ホークスがリバン・モイネロと発表された。プロ野球史に残る大逆転劇は完結するのか。それとも、王者が最後の最後でその力を見せつけるのか。新庄劇場、最終章の幕が、まもなく上がろうとしている。

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