「格差は、もうない」レイエスの轟音と新庄監督の信頼が鷹を貫いた日。

グランドとボール パリーグ

2025年10月18日、クライマックスシリーズ・ファイナルステージ第4戦。崖っぷちに立たされていた北海道日本ハムファイターズが、王者ソフトバンクホークスを相手にもぎ取った、あまりにも鮮やかな勝利。

もちろん、ホークスが日本シリーズ進出に王手をかけている事実に変わりはない。けれど、この日のファイターズが見せた野球は、フランミル・レイエスの止まらないバットを起爆剤とし、新庄剛志監督の静かな信頼に支えられ、確かにシリーズの空気を一変させた。

かつて両者の間に横たわっていたはずの、絶対的とも思えた「格差」。それが急速に埋まりつつあることを、この一戦は何よりも雄弁に物語っていた。

これはもう、「挑戦者」の野球ではない。リーグの盟主と真正面から渡り合い、実力でねじ伏せる力を持った「対等な競争相手」への変貌。その確かな足音を聞いた、そんな試合だった。

空気を変えた、運命の3回表

試合は、またも苦しい展開で始まった。初回、ホークス・中村晃選手のタイムリースリーベースであっさり先制を許す。またこの流れか、と重苦しい空気が漂いかけた。

だが、今のファイターズはここからが違った。

すべてが決まったのは3回表。それは静かな反撃などではなく、スタジアムの支配権を力ずくで奪い取るような、鮮烈な攻撃だった。

先頭の水谷瞬選手が、冷静に四球を選ぶ。続く山縣慎選手の送りバントは失敗に終わるが、むしろこれが打線に火をつけたのかもしれない。山縣選手自らがタイムリースリーベースを放ち、試合を振り出しに戻す。

ベンチの空気が、一変した。

そして、1-1の同点。なおも続くチャンスで、あの男が打席に向かう。フランミル・レイエス。

振り抜かれたバットから放たれた打球は、センターへ。初球だった。完璧に捉えられたその一撃は、PayPayドームの空気を切り裂く2ランホームランとなった。この回一挙4点。このリードを、ファイターズが手放すことはなかった。

この3回の攻撃に、今のファイターズの進化が凝縮されていたように思う。忍耐強くチャンスを待つ目(水谷)、状況を打開する勝負強さ(山縣)、そして試合を決める絶対的なパワー(レイエス)。もう、まぐれの一発を待つチームではない。

「レイエス」という名のエンジン。彼がチームを牽引する理由

今年のクライマックスシリーズにおけるフランミル・レイエス選手のパフォーマンスは、「絶好調」という言葉ではもはや足りない。「支配的」と呼ぶのがふさわしいだろう。

第4戦の決勝ホームランは、決して単発の輝きではない。前日の第3戦、あの6-0の勝利を決定づけたのも、彼のホームランだった。ファイターズが挙げた2つの白星は、間違いなく彼のバットが叩き出したものだ。

3番に彼が座る意味は、計り知れない。

彼の存在が、1番・水谷選手、2番・山縣選手への相手投手の警戒心を強めさせ、結果として第4戦の3回のような四球(チャンス)を生み出す。そして後続の清宮選手やマルティネス選手にとっては、相手がレイエス選手との勝負を避けようとすることで、より打ちやすい球が来る可能性が高まる。

彼は単なる「点」ではなく、打線全体の「流れ」を生み出すエンジンそのものだ。彼が打席に立つたびに、ホークス投手陣にかかるプレッシャーは最高潮に達する。彼こそが、昨季までのファイターズに足りなかった、強者と渡り合うための最後のピースだったのかもしれない。

データが示す「埋まった差」。昨年の雪辱は始まっている

このシリーズが何より示しているのは、ファイターズとホークスの実力差が、本当に縮まっているという事実だ。(アドバンテージを除けば)これで2勝2敗のタイ。

昨年のCSファイナルを思い出してみてほしい。

2024年、僕らはホークスに0勝4敗のスイープで一蹴された。レギュラーシーズンの13.5ゲーム差を、そのまま見せつけられるような完敗だった。

それが、どうだろう。

昨年は歯が立たなかった相手に対し、今年は互角の勝負を演じている。1点先制された直後に、平然と4点を奪い返してみせる。あの精神的な強さは、昨年のチームにはなかったものだ。

もう、ホークスの野球に受け身で対応するチームじゃない。自分たちの武器(攻撃力)で試合の主導権を握り、王者に「対応」を強いている。第4戦でホークス投手陣が振るわなかったのは、偶然ではない。ファイターズ打線がかけ続けたプレッシャーの、当然の結果だ。

長年続いてきた心理的な優位性は、もう、ない。

「今日も明日も選手に聞いてちょうだい!!」新庄監督が紡ぐ、信頼のカタチ

9-3の快勝の後、新庄監督はいつものように、すべての光を選手たちに向けた。

「今日も明日も選手に聞いてちょうだい!!」

これは単なるメディア対応ではない。彼の揺るぎないリーダーシップの在り方、そのものだ。勝利の功績も、注目も、物語の主役の座も、すべてはグラウンドで戦った選手たちのものだ、と。

これこそ、指揮官が選手に示すことのできる、最大の信頼のカタチだろう。

以前、継投策について聞かれた時も、コーチの手腕を称賛していた。彼は自分を万能の指導者ではなく、あくまで選手やコーチの能力を引き出す「触媒」として位置づけている。

コメントに含まれた「明日も」という一言。そこには、「明日も必ず彼らが素晴らしいプレーを見せ、勝利し、主役になる」という、静かだが力強い確信が込められている。

監督が主役になることを拒むからこそ、選手たちは「自分たちが物語を動かすんだ」という主体性を持つ。だから、リードされても、崖っぷちに立たされても、このチームは崩れない。グラウンドで見せたあの逆転劇は、新庄監督が築き上げてきたチームカルチャーそのものだった。

崖っぷちの先に見える景色

もちろん、冷静になる必要はある。ホークスが日本シリーズまであと1勝という優位に変わりはない。僕らに残された道は、連勝しかない。

けれど、目先の星勘定だけでは見えない、もっと大きな物語が動いている。

この4試合で、ファイターズはシリーズの勝ち負け以上に大切な何かを証明した。それは、ホークスが絶対的な支配者として君臨した時代が、終わりつつあるという確かな事実だ。

最終的な結果がどうなろうとも、このCSでの本当の収穫は、チームが進んできた道が正しかったと証明されたことにある。レイエスという大砲、そして新庄監督が育んだ不屈の精神は、王者と互角に戦えるということを示してくれた。

あの9-3の勝利は、もう「番狂わせ」じゃない。

これが、これからのファイターズの「新たな基準(ニュー・スタンダード)」になる。パ・リーグの勢力図は、今、確実に変わろうとしている。

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