崖っぷちで掴んだ魂の逆転劇!清宮の同点打、水野の決勝弾でファイターズが優勝への望みを繋ぐ

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1試合の重み:崖っぷちに立たされたシーズン

2025年9月26日、パ・リーグのペナントレースは息をのむような緊張感に包まれていた。この日、2位の北海道日本ハムファイターズが埼玉西武ライオンズに敗れ、かつ首位の福岡ソフトバンクホークスが東北楽天ゴールデンイーグルスに勝利すれば、その瞬間にホークスのリーグ優勝が決定するという、まさに崖っぷちの状況にあった。

ホークスの優勝マジックは「2」。9月5日に「18」で初点灯して以来、その数字は着実に減り続け、ファイターズに容赦ないプレッシャーをかけ続けてきた。シーズン前の大方の予想通り、豊富な戦力を誇るホークスが王者の風格を見せつける一方で、新庄剛志監督率いるファイターズは若手の躍進を原動力に、果敢な挑戦者として食らいついてきた。そのシーズンのすべてが、この一日に凝縮されていた。

選手たちが背負っていたのは、目の前のライオンズとの一戦に勝つという単純なタスクだけではなかった。もしこの試合に敗れれば、その瞬間に自らの手で優勝の可能性をコントロールすることはできなくなり、遠く離れた仙台の地で行われているホークスの試合結果に全てを委ねることになるからだ。自らの敗戦と、ホークスの勝利。その二つが重なった時、夢は潰える。この「二正面作戦」ともいえる過酷な心理状況は、選手の精神力を極限まで試すものだった。

悪夢の幕開け:遠のき始めた夢

そんな運命の一戦は、ファイターズにとって悪夢以外の何物でもない形で始まった。

1回裏、ファイターズの先発・加藤貴之がライオンズ打線にいきなり捕まる。先頭の西川愛也に三塁打を浴びると、滝澤夏央のセカンドゴロであっさりと先制点を献上。さらに四球とネビンの二塁打でピンチを広げると、セデーニョにセンター前へ運ばれ2点を追加された。わずか数分でスコアボードに刻まれた「3-0」という数字。ベルーナドームに集まった27,597人の観衆の前で、ファイターズの優勝への望みは、試合開始直後に風前の灯火となったかのように見えた。

抵抗の狼煙:清宮幸太郎は屈しない

しかし、このまま終わるファイターズではなかった。反撃の狼煙を上げたのは、チームの主砲、清宮幸太郎だった。この日、5打数3安打の猛打賞を記録した清宮は、チームの抵抗の象徴となった。

その真骨頂が発揮されたのは3回表の攻撃だった。1点を返してなおも1死満塁、スコアは3-1。ここで打席に立った清宮は、ライオンズ2番手・浜屋将太の投球に食らいつき、ライト前へ執念のタイムリーヒットを放つ。2人の走者が生還し、スコアは3-3の同点。初回に背負った重いビハインドを、清宮の一振りが見事に帳消しにした。

もしこの満塁のチャンスを逃していれば、チームの士気は底を突き、試合の流れは完全にライオンズに傾いていただろう。しかし、清宮が試合を振り出しに戻したことで、「まだやれる」「ここからだ」という信念がチーム全体に蘇った。それは勝利への直接的な一打ではなかったかもしれないが、勝利を再び信じるための、そして後に続くヒーローの登場を可能にするための、最も重要な「蘇生の一打」だったのである。

球場に響いた快音:水野達稀、勝ち越しの決勝弾

試合がリセットされ、両チーム一歩も譲らぬ展開の中、試合の均衡を破る決定的な一撃が飛び出した。主役は、遊撃手の水野達稀だった。

3回裏に渡部聖弥のソロホームランで同点に追いつかれ、4-4で迎えた5回表。ファイターズは1死から郡司裕也、そしてこの日当たっている清宮幸太郎の連打でチャンスを作る。石井一成が送りバントをきっちりと決め、1死二、三塁と絶好の勝ち越し機を迎えた。この最高潮の場面で、打席には水野が入った。

カウント2-1からの4球目。水野が振り抜いた打球は、乾いた音を残してセンター方向へ一直線に伸びていく。打球はそのままバックスクリーンに飛び込む、勝ち越しの第7号3ランホームランとなった。スコアは7-4。2試合連続となる一発は、かろうじて望みを繋ぐ一撃だった。

試合後のヒーローインタビューで、水野は「ある程度狙っていた球が来たので上手く打てました」と冷静に語った。その言葉は、この一打が偶然の産物ではなく、プレッシャーのかかる場面で自らの狙いを定め、完璧に実行した技術と精神力の賜物であったことを証明していた。

リードを守り抜け:最後のアウトまでの攻防

水野の一発で大きなリードを奪ったファイターズだが、試合はまだ終わらない。王者への挑戦権を一日でも長く維持するためには、このリードを最後まで守り切る必要があった。

ファイターズは6回表にもレイエスの犠牲フライで1点を追加し、スコアを8-4とする。しかし、その裏、ライオンズのネビンがソロホームランを放ち、すぐさま8-5と点差を詰められる。3点のリードは決して安全圏ではなく、試合の行方は依然として予断を許さなかった。

プレッシャーのかかる終盤、ファイターズは畔柳亨丞などのリリーフ陣が粘りの投球を見せる。そして最終回、マウンドに上がったのは守護神・田中正義だった。田中は約3ヶ月ぶりのセーブ機会となったが、その投球は圧巻だった。セデーニョ、古市尊、源田壮亮を三者凡退に打ち取り、ゲームセット。この瞬間、ファイターズは崖っぷちで踏みとどまり、優勝への挑戦権を自らの手で翌日へと繋いだ。

一つの勝利、そしてさらに険しい次なる山へ

劇的な逆転勝利に沸くファイターズ。しかし、その喜びも束の間、彼らには厳しい現実が突きつけられる。遠く仙台の地で、首位ホークスもまた楽天を相手に3-0のビハインドを跳ね返し、4-3で逆転勝利を収めていたのだ。

この結果、ファイターズの血の滲むような努力は、順位の差を詰めることには繋がらなかった。ホークスの優勝マジックは「2」から「1」へと減り、ファイターズはさらに追い詰められた。自力優勝の可能性は消滅し、翌日の試合に勝利した上で、ホークスが敗れるのを待つしかなくなった。

この日の両チームの戦いぶりは、奇しくも今シーズンのパ・リーグの激しさを象徴していた。挑戦者ファイターズも、王者ホークスも、同じ日に同じようにビハインドを背負いながら、決して諦めずに逆転勝利を掴み取った。それはまさに、王座を巡る両雄の意地と意地がぶつかり合った、チャンピオンシップにふさわしい一日だったと言える。

試合後、新庄監督は報道陣の問いに多くを語らなかった。ただ、こう繰り返すだけだった。「なんもないっすよ。全員で勝つのみ。なんもない。ほんとなんもない。勝つのみ」。

その短い言葉には、劇的勝利に浮かれることなく、ただひたすらに次の一戦を見据えるチームの固い決意が込められていた。ファイターズは奇跡を信じ、シーズン最後の一日まで、戦い続ける。

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