1. 消耗戦の果てに見えた劇的な幕切れ
4時間半を超える長時間の激闘は、劇的な一打によって幕を閉じた。9月13日、エスコンフィールドHOKKAIDOで行われた北海道日本ハムファイターズ対埼玉西武ライオンズの一戦は、延長11回の末にファイターズが5−4でサヨナラ勝利を収めた。試合は、ヒーローの雪辱、絶対的守護神のまさかの失点、そして敗れながらも最後まで食らいついた敵チームの執念といった、野球のドラマが凝縮された内容となった。
表1: 試合結果詳細
チーム | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | R | H | E |
埼玉西武 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 4 | ||
日本ハム | 1 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1X | 5 |
- 勝利投手: 杉浦 稔大 (2勝2敗)
- 敗戦投手: 山田 陽翔 (2勝3敗1S)
2. 序盤の攻防:一発攻勢で主導権を握ったファイターズ
試合序盤は、ファイターズが本塁打によって着実にリードを広げる展開となった。この序盤に得たリードが、後の劇的な終盤戦の伏線となる。
2.1. レイエスが放った先制の30号アーチ
試合が動いたのは初回裏。ファイターズは二死から、3番のアリエル・レイエスがライトスタンドへ先制のソロホームランを叩き込み、1-0とする。この一発はレイエスにとって今シーズン30号となる記念すべき一打であり、ファイターズの選手としては2020年の中田翔以来5年ぶりとなる大台到達であった。チームの主砲として打線を牽引する存在であることを改めて示す一撃が、チームに勢いをもたらした。
2.2. 今川、外崎による本塁打の応酬
3回裏、ファイターズは今川 優馬がライトスタンドへソロホームランを放ち、リードを2-0に広げる。しかし、ライオンズも黙ってはいない。直後の4回表、外崎 修汰がレフトスタンドへソロホームランを返し、すぐさま1点差に詰め寄った。両チームのパワーヒッターによる一発攻勢が、試合を緊迫させた。
2.3. 石井の2ランが作った「セーフティーリード」
試合の流れを再びファイターズに引き寄せたのは、4回裏の一打だった。一死一塁の場面で打席に立った石井 一成が、ライトスタンドへ2ランホームランを運び、スコアを4-1とした。1点差では常にプレッシャーがかかる状況が続くが、この一打で得た3点差というリードはチームに精神的な余裕を与え、試合の主導権を確固たるものにしたかに見えた。後にライオンズが猛追を見せることを考えれば、この石井の一発がなければ試合は全く違う展開になっていただろう。この「保険」とも言える得点が、終盤のドラマを生み出すための重要な布石となったのである。
3. 9回:鉄壁の崩壊と奇跡的な粘り
野球の筋書きのなさを象徴するかのような、壮絶な9回だった。ファイターズの勝利が目前に迫る中、絶対的な守護神が崩れ、ライオンズが土壇場で見せた驚異的な粘りが試合を振り出しに戻した。
3.1. 破られた不敗神話:上原、今季初失点の悪夢
6回に滝澤 夏央のショートゴロの間に1点を返され、4-2で迎えた9回表。ファイターズはマウンドに守護神・上原 健太を送る。今季、上原はここまで16試合連続無失点と完璧な投球を続けており、その存在はチームの勝利の方程式における絶対的な核であった。しかし、この日はその鉄壁が突如として崩れ去る。
上原は、これまで見せなかった乱調を露呈する。詳細なプレーの経過は以下の通りである。
- 先頭の渡部 聖弥にライト前ヒットを許す。
- 続く代打・長谷川 信哉にはショートへの内野安daを打たれ、無死一、二塁のピンチを招く。
- セデーニョを空振り三振に仕留め、一死を取るも、続く古賀 悠斗に四球を与え、満塁となる。
- 山村 崇嘉のセカンドゴロの間に三塁走者が生還し、スコアは4-3。1点差に詰め寄られる。
- さらに二死一、三塁から、西川 愛也には死球を与え、再び満塁のピンチを背負う。
一つのアウトを取る間に安打、四球、死球が絡み、徐々に傷口が広がっていく。これは単発の痛打による失点ではなく、制球を失い、自ら招いた危機であった。これまで完璧な投球を続けてきた投手にとって、一つの綻びが連鎖的にプレッシャーを増幅させたことは想像に難くない。無敵だった守護神が、一つのイニングでその神話を自ら打ち破ってしまった瞬間だった。
3.2. ライオンズの咆哮:滝澤、起死回生の同点打
二死満塁、スコア4-3。ライオンズは敗戦まであとアウト一つ。この絶体絶命の場面で、打席には2番の滝澤 夏央が入った。滝澤は9月に入って打率.389と好調を維持しており、その勝負強さがこの土壇場で発揮される。追い詰められた状況で、滝澤は上原の投球に食らいつき、三遊間を破るレフト前へのタイムリーヒットを放った。三塁走者が生還し、スコアは遂に4-4の同点。本拠地エスコンフィールドは静まり返り、ライオンズベンチは歓喜に沸いた。敗色濃厚の展開からの同点劇は、ライオンズの執念が生んだものだった。
3.3. 勝利を阻んだ超美技:西川が清宮の初ヒーローを阻止
9回表に同点とされ、完全に流れを失ったかに見えたファイターズだったが、その裏、サヨナラ勝ちの絶好機を迎える。二死一、二塁の場面で、打席には5番の清宮 幸太郎。一打出れば試合が決まるという、まさにヒーローになるための舞台が整えられた。
清宮は高めのフォークを捉え、打球はセンター後方へ鋭く伸びる。サヨナラかと思われた大飛球だったが、これをライオンズの中堅手・西川 愛也が背走しながらジャンピングキャッチするスーパープレーで阻止した。このプレーがなければ、試合は9回で終わっていた。西川のこの一つのプレーが、ライオンズを敗戦の淵から救い出し、試合を延長戦へと持ち込ませたのである。それは、清宮にとっての最初のヒーローの機会を奪うと同時に、11回に訪れる二度目の機会、すなわち「雪辱の舞台」を用意する決定的なプレーでもあった。攻撃だけでなく守備でも見せたライオンズの粘り強さが、この試合をさらなる激闘へと昇華させた。
4. 最終幕:延長の消耗戦と雪辱の一打
9回の攻防で両チームが死力を尽くした結果、試合は延長戦に突入。息詰まる投手戦を経て、物語は再び一人の打者のバットに集約されていく。
4.1. 膠着状態:ブルペン陣の踏ん張り
延長10回は両チームの救援投手が踏ん張り、無得点に終わる。試合開始から4時間を超え、選手たちの疲労もピークに達する中、一進一退の攻防が続いた。まさに総力戦の様相を呈していた。
4.2. 延長11回:最後の好機
試合が決したのは延長11回裏。ファイターズは二死から満塁のチャンスを作り出す。打席には、9回裏にサヨナラの好機で凡退していた清宮 幸太郎。同じようなサヨナラの場面が、再び彼のもとに巡ってきた。マウンドにはライオンズ7番手の山田 陽翔。球場の誰もが固唾を飲んで、この対決を見守った。
4.3. 雪辱の一打:清宮、劇的なサヨナラ打
9回の好機を逸した悔しさが、この打席の清宮を突き動かした。試合後、清宮は「2回(凡退)はないぞと思っていた」と語っている。その言葉通り、彼は同じ失敗を繰り返さなかった。
山田が投じたツーシームを捉えた打球は、二塁手の左を抜けてセンター前へ転がった。三塁走者がサヨナラのホームを踏み、その瞬間、4時間半を超える死闘に終止符が打たれた。自身にとって2年ぶりとなるサヨナラ打。清宮は一塁ベース上で右手を突き上げ、ベンチから飛び出したチームメイトにもみくちゃにされながら歓喜を爆発させた。9回の凡退という失敗を乗り越え、自らのバットで勝利を掴み取った一打は、まさに雪辱を果たす劇的な一撃だった。
5. 総括:激闘が残したもの
この一戦は、両チームにとって様々な意味を持つ試合となった。
5.1. 粘り強さが生んだ勝利と、執念が見えた敗戦
ファイターズにとっては、9回の悪夢のような展開を乗り越えて掴んだ、精神的な強さを示す一勝となった。絶対的守護神が打たれてもなお、チームとして勝ち切る力があることを証明した。一方のライオンズにとっては、痛恨のサヨナラ負けで6年連続のV逸が決定する厳しい一戦となったが、9回二死からの同点劇や西川の超美技など、最後まで勝利を諦めない姿勢は際立っていた。敗れはしたものの、その執念は称賛に値するものであった。
5.2. 新庄監督の視点
試合後、新庄剛志監督は激闘を振り返り、選手たちや相手チームの好プレーに言及した。
サヨナラ打を放った清宮については、「もう打つと思いましたよ。決めるだろうなって」と、その勝負強さに全幅の信頼を寄せていたことを明かした。
一方、今季初失点を喫した守護神・上原については、「本人が一番悔しいと思う」とその心情を思いやりつつも、「ああいう時こそテンポ良く」「元々リズムがいい子なんで」と、持ち前のリズムを取り戻すことの重要性を説いた。これまでの貢献を認め、過度に硬くならず、野手を信頼して投げるようアドバイスを送った。
監督の視野は、敵チームの選手にも向けられた。9回に清宮の大飛球を好捕した西川のプレーを「(アメフトの)タッチダウン?」「素晴らしかった」と絶賛。また、同点打を放った滝澤に対しても、「毎年を重ねることに成長して。あの体で。ほんとに野球をしてる少年たちに勇気を与える選手」と、その成長と野球への姿勢を称えた。勝敗を超えて好プレーを称える姿勢は、この試合がいかに質の高いものであったかを物語っている。
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