2025年8月16日、楽天モバイルパーク宮城。敵地に乗り込んだ北海道日本ハムファイターズが、東北楽天ゴールデンイーグルスを相手にその強さを見せつけた。投打が噛み合ったファイターズは、16安打9得点という圧倒的な攻撃力で9-5の快勝を収めた。この日の主役は、勝負強さを見せつけ4打点を叩き出した水野達稀と、プロ7年目にして初のシーズン100安打という金字塔を打ち立てた清宮幸太郎だ。
試合前のデータが示す通り、ファイターズは楽天戦でチーム打率.280、84得点を記録しており、楽天の打率.212、42得点を大きく上回っていた。この日の猛攻は、決して偶然ではなく、シーズンを通じて築き上げてきた確固たる優位性の発露であった。
試合は序盤からファイターズペースで進み、中盤で突き放す理想的な展開。最終回に追い上げられたものの、それすらもチームの未来を考える指揮官の慧眼を際立たせる結果となった。メモリアルな一打と、勝利を決定づける一打が交錯した熱戦の模様を、選手たちの活躍と新庄剛志監督の言葉と共に詳報する。
試合の口火を切った清宮、プロ7年目の金字塔
この日の猛攻の起点となったのは、間違いなく清宮幸太郎だった。2回表、この回の先頭打者として打席に立った清宮は、楽天の先発・内星龍投手の投じたボールを鋭く捉え、ライト前へクリーンヒットを放った。これが、今シーズンの記念すべき100本目の安打。プロ入り7年目にして、ついに到達した大台だった。
過去、彼のキャリアは輝かしい才能の片鱗を見せる一方で、度重なる故障に泣かされ、シーズンを通しての安定した活躍が課題とされてきた。100安打という記録は、一年間レギュラーとして試合に出続け、コンスタントに結果を残し続けた者だけが手にできる勲章である。試合後、清宮自身もその点を深く理解していた。
「今までは打ったことなかったんで、ひとまずよかったです。けがなくやれてるというのも一つあると思います」。
この言葉には、安堵と共に、自身の成長への確かな手応えが滲む。単なる数字の達成ではなく、怪我を乗り越え、フィジカルと技術を高いレベルで維持し続けられたことへの自負が感じられる。この一打は、彼がかつての「未完の大器」から、チームを牽引する「信頼できる主軸」へと完全に変貌を遂げたことを象徴する一打となった。
しかし、清宮の活躍はこれだけでは終わらない。さらに3回には無死満塁のチャンスで犠牲フライを放ち貴重な追加点を挙げると、5回には右中間へ二塁打を放つなど、この日は4打数3安打1打点の「猛打賞」の大活躍。まさに自らのメモリアルゲームに花を添えた。
水野達稀、勝負を決めた圧巻の4打点
清宮がチームの勢いに火をつけたとするならば、その炎を勝利という結果に結びつけたのは、9番・ショートで出場した水野達稀だった。この日、水野は勝負どころでの驚異的な集中力を見せつけ、一人で4打点を挙げる大暴れで勝利の最大の立役者となった。
彼の貢献は、試合のあらゆる局面で光った。
まず2回表、万波のタイムリーで2点を先制し、なおも一死三塁のチャンス。ここで水野は、確実に走者を還すことを第一に考え、センターへきっちりと犠牲フライを打ち上げた。この1点でリードは3-0に。派手さはないが、チームの勝利のために自らの役割を全うする、クレバーな打撃だった。
そして、この試合のハイライトが訪れたのは5回表。4回裏に楽天フランコのソロホームランで1点を返され、スコアは5-1。ここで流れを渡すわけにはいかない場面で、二死一、二塁のチャンスが水野に回ってきた。彼は楽天2番手・津留崎大成投手の投じたカットボールを完璧に捉えると、打球はライト線を破る痛烈な走者一掃のタイムリースリーベースとなった。スコアは7-1。この一打で試合の趨勢は完全に決したと言っていい。二死からチャンスを広げ、それを確実にものにするクラッチヒッターぶりは圧巻の一言だった。
とどめは9回表。二死走者なしの場面で、ダメ押しとなる4号ソロホームランをライトスタンドへ叩き込んだ。この時点では9-2となり、単なるダメ押し点に見えた。しかし、その裏に楽天が3点を返す猛追を見せたことを考えれば、この一発がいかに重要であったかは明らかだ。
勝利を支えた男たち
清宮と水野の活躍が目立った試合だが、この勝利はチーム全体の力によってもたらされたものであることを忘れてはならない。ファイターズはこの日、5人の選手がマルチヒットを記録するなど、打線全体が機能した。
先制となる2点タイムリーツーベースを放った万波中正の存在が大きい。清宮の100安打で作ったチャンスを確実に得点に繋げ、チームに主導権をもたらした。また、5回には野村佑希もタイムリーツーベースを放ち、水野の決定打へとお膳立てをした。まさに、打線が線として繋がり、ビッグイニングを生み出した典型的な例であった。
一方、マウンドでは先発の加藤貴之が粘りの投球を見せた。直近2試合で連続して4失点を喫し、連敗中と苦しい状況にあった。しかしこの日は、楽天のフランコに2本のソロホームランを浴びながらも、大崩れすることはなかった。6回を投げ8安打2失点と試合を作り、打線の強力な援護に応える形で今季8勝目を手にした。決して本調子ではなかったかもしれないが、エースとして最低限の仕事を果たし、チームを勝利に導く。その姿は、まさに「粘投」という言葉がふさわしい、精神的な強さを感じさせるものだった。
「控えメンバーもすごい」― 新庄監督が語る、勝利の先に見据えるもの
16安打9得点という快勝劇。しかし、試合後の新庄剛志監督の言葉は、目の前の勝利に浮かれることなく、冷静にチームの未来を見据えていた。
最終回に3点を返され、一時はヒヤリとする場面もあった。指揮官はまず、その点に触れて報道陣を笑わせた。「今日は『選手に聞いて』って言おうとしたんだけど(最後に)追い詰められたんで。取材します」。このユーモアは、試合の緊張感を和らげると同時に、最後まで気を抜けない戦いであったことを示唆している。
そして、その言葉はすぐにチームのマネジメントへと繋がっていく。
「明日はちょっと(試合に)ずっと出ている選手に体の張りとかも出ているから。休ませるメンバーを考えたいと思います。ケガにつながるから。ケガしてもらったら困るんでね」。
この日の快勝は、レギュラー陣の活躍があってこそ。しかし、監督の視線はすでに、過酷なペナントレースを戦い抜くためのコンディション管理に向けられている。最終回の失点は、リリーフ陣の疲労の表れかもしれない。だからこそ、この勝利を可能にしたチームの「深さ」を信じ、積極的な休養を与えるという戦略的判断を下そうとしているのだ。
16安打の猛攻については、「今日、誰が打ったかようわからんし」と、新庄監督らしい独特の表現で称賛した。これは決して無関心なのではなく、特定の個人に頼るのではなく、チーム全員で勝ち取った勝利であることを称える、最大の賛辞である。
「みんなには知らせていない(選手の)張りやら、疲れやら、メンタルやら。内部にしかわからない事情もあるし。でも、控えメンバーもすごい選手ばかしなんで。(今後の先発メンバーは)〝快癒器〟(かいゆうき)をしながら考えます(笑い)」。
この言葉に、新庄監督の哲学が集約されている。選手のコンディションを細やかに把握し、故障を未然に防ぐ。そして、ベンチに控える選手たちへの絶対的な信頼を公言することで、チーム内の競争を活性化させ、全体のレベルアップを図る。背中のツボを押す健康器具を使いながら次の試合の構想を練るというユニークな姿の裏には、常勝軍団を作り上げるための緻密で愛情深い戦略が隠されている。
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